夢をみた

夢を見た。

夢のなかで彼女は、ごめんね。としきりに呟きながら僕を抱き締めた。

滑らかなタッチで僕の太ももを撫でる。女性らしいスベスベとした手先が僕の喉元をくすぐった。滑らかな肌の女の子はタッチも滑らかであることを初めて知ったところで、本物の彼女の手は少しシワの入ったゴツゴツとした手であることを思い出した。偶然、それも数回しか触ったことのない彼女の手で夢を自覚する。こんなちっぽけな思い出を脳の奥に刻み込んでしまうほど、当時、彼女は自分にとっての全てであった。

彼女の滑らかな手は僕を挿入へ導く。骨ばった恥丘が、挿入を促す開脚により強調される。夢とは現実のアイコラージュであり、彼女の秘所はまた、名古屋で当たったヘルス嬢のそれだ。粗末なアイコラの正体に気付いたとき、強姦罪実刑が懲役4年であることと、6年間の片想いの末に彼女の秘所に触れるどころか上手く想像することも出来なかった事実とが頭をよぎり、往き来していた。

この挿入の感覚は誰のものであろうか。もしかしたら、風俗街で童貞を棄てたときに出会ったタイ人のニューハーフのものかもしれない。

射精をするわけでもしないわけでもなく、挿入は終わる。いつ終わったのかもわからないが、また彼女の滑らかな手が僕を撫でていた。アダルトビデオのシークバーを右へ進めるように、夢のなかでは違和感なく、画面の外からは違和感だらけで、挿入は終わった。

この期に及んでまだ。25歳にもなって、26歳女性の挿入を想像すら出来ない自分に情けなくなっている間も、彼女の手は休まない。

「ごめんね。」と、繰り返しながら、わざとらしいほど艶かしく、彼女の手は僕の身体を滑り続ける。

この、「ごめんね。」の声は、僕が彼女に告白をしたときに、二時間にも渡って彼女が泣きながら呟き続けた、あの声であったと思う。


あのとき、泣きながら僕の背中を抱き締めていた彼女の手は、やはりゴツゴツとしていた。それでいて、泣きながら僕の羽織るカーディガンをグシャグシャに掴む彼女の手は、わざとらしいほどに艶かしかった。


彼女の手は、僕の髪を撫で、首筋へ降り、また股間をまさぐる。

これをみよがしに、彼女は射精を促し、何度目か分からない絶頂を僕は体験する。いや、体験したのだろう。シークバーは、また、射精直後まで右へ進んでいた。

頭部に違和感がある。触ってみると、それはローションであった。

僕の髪から首筋へ降りて、太もも、股間まで、僕の身体はローションにまみれていた。


目が覚めた。時計の針は8時を指しており、僕はベットから跳ね起きた。

慌ただしく、かつ、夢よりも中身のない日常に戻る。片想いを中心に人生が組み立った者にとって、日常とは、彼女との夢よりも中身のないものだ。

夢のなかで、彼女の手を洗い落としたら、その手は滑らかな女性の手なのか、それとも、少しシワの入ったゴツゴツとした手が現れるのだろうか。


片想いにとって大切なのは、そういった、夢の中の自己満足であると、僕は思う。